なぜ金を保有するのか?中央銀行に学ぶ個人投資家の金投資
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金は古くから価値が認められ、貨幣や宝飾品として使用されてきました。
しかし、現代では単なる装飾品以上の役割を果たし、特に現代における各国の中央銀行は、経済の安定や金融政策の柱として金を重要視しているのをご存じでしょうか。
中央銀行が金を戦略的に保有する背景には、長期的な経済の安全保障や国際的な信用を維持する狙いがあります。
そこで今回の記事では、中央銀行がなぜ金を保有するのかを解説します。
投資家にとっても、中央銀行が金を保有する意図を学ぶことは有益です。
特にリスクヘッジや資産保全として、金投資が選択肢のひとつとなる理由が理解できるでしょう。
1. 中央銀行の役割
物価や金融システムの安定を担うのは、国家の中央銀行や特定の地域の金融機関です。
なかでも中央銀行は各国の商業銀行(預金などを原資に貸し出しや商業手形の割引などを行う金融機関)と連携しながら、経済の安定を図る重要な役割を果たしています。
まずは、具体的な中央銀行の役割を解説します。
私たちの日常生活や投資にも深く関わっているため、これらの役割について理解を深めておきましょう。
■ 物価の安定
中央銀行の最も重要な任務のひとつは物価の安定です。
物価が急激に上昇するインフレや逆に下がり続けるデフレは、経済全体に大きな影響を与え、私たちの生活費や資産価値に直結します。
インフレが進むと貨幣の価値が下がり、物の値段が上がり続けるため生活コストが高くなります。
一方、デフレが続くと経済活動が停滞し、企業の業績悪化や失業率の上昇を招くおそれがあるのです。
そこで中央銀行は、物価を一定の範囲内に保つために金利政策や金融緩和などの施策を実施し、経済の安定を目指します。
このように、中央銀行は金融政策を主導する存在であることから、金融に関して独自の判断をしなければならず、政府から独立した機関でなければなりません。
■ 金融システムの安定
金融システムの安定は私たちの預金を守るために欠かせません。
銀行が健全に運営されなければ預金が引き出せなくなったり、金融市場全体が混乱したりする可能性があります。
そこで、中央銀行は各銀行に対する規制を設け、リスクの高い行動を制限しています。
万が一、金融機関が資金不足に陥った際には中央銀行が「最後の貸し手」として緊急的に資金を供給し、銀行の破綻を防ぐ役割も果たすのです。
このように中央銀行は経済全体が混乱するリスクを抑え、私たちの資産を守る基盤を提供し続けているのです。
■ 通貨の発行
中央銀行はその国や地域で利用される銀行券(紙幣、貨幣)を発行する「発券銀行」としての役目を担っています。
さらに、中央銀行はマネーサプライ(市場に流通するお金の量)を調整することで、経済の安定を図る役割も果たしています。
過剰な貨幣供給はインフレを引き起こし、逆に供給不足は経済活動を停滞させる可能性があるため、適切な供給量を維持することが重要です。
2. 中央銀行が金を保有する理由
中央銀行は通貨や債券のほかに金を保有しています。
特に金は、ほかの資産とは異なる性質を持ち、経済が不安定な状況に陥ったときの保険としての役割を果たしています。
ここでは、中央銀行が金を保有する理由を紹介するので、ぜひ参考にしてください。
中央銀行が金を保有する理由の多くは、個人投資家にも当てはまることに気がつくでしょう。
■ 世界的には外貨準備における金の割合は増加傾向に
近年、世界各国の中央銀行が外貨準備として保有する金の割合が増加傾向にあります。
外貨準備とは外国通貨や資産を保有することで、国際的な経済安定や国際取引の信頼性を保つためのものです。
日本は主に米国債を保有していますが、多くの国では金がその外貨準備の中で重要な位置を占めるようになっています。
世界各国が、経済不安定時に金が価値を保つ資産として機能することを期待していることの表れといえるでしょう。
外貨準備とは?
金は外貨準備の一部としても利用されます。
外貨準備とは、円の価値を安定させるために使ったり外国に返すお金が足りなくなったりしたときの備えとして、国が外国のお金などをためておくことです。
具体的には、為替相場が大きく変動したときに、中央銀行が外貨準備を使って市場に介入することができます。
自国の通貨が急に価値を失って他国との取引が難しくなっても、金や外貨を売買すれば自国の通貨を支えることが可能です。
これを「為替介入」と呼び、金はその際に信頼できる資産として活躍します。
■ 経済危機への懸念
戦争や経済危機のような非常時には、多くの国の通貨や株式が大幅に価値を失ってきました。
たとえば、2008年のリーマンショックの際には多くの人が株式や不動産の価値が急落し、大きな損失を受けました。
しかし、金はそのような状況でも価値を保ち続け、安定した資産として注目されてきたのです。
中央銀行が金を保有しているのは、こうした危機的な状況に備えるためです。
金は世界中で価値が認められており、特に戦争や経済混乱が起きた時でもほかの資産より安全だと考えられています。
■発行体がない『安全資産』
金は紙幣や国債と違って、特定の発行体、つまり「誰かが発行するもの」ではありません。
発行体がないということは、国や企業などが発行している資産のように発行者が破綻したり信用を失ったりする場合に、価値が下がるリスクがないことを意味します。
たとえば、国が発行する国債や企業が発行する株式は、その発行体の経済状況に左右されますが、金は特定の発行体がないためこうしたリスクを避けられます。
そのため、金は経済的な不安定な状況でも価値が守られると考えられており、「安全資産」として高く評価されているのです。
■ 資産との相関性が低い
金は株式や債券などほかの資産と価格があまり連動しないため、リスクヘッジに役立ちます。
投資におけるリスクヘッジとは、リスクを抑えるために異なる値動きをする資産を組み合わせる手法です。
たとえば、株式市場が不安定になった際、投資家がリスクの高い株式を手放し投資先を金に移動させるため、金の価格は逆に上がりやすいです。
金を自分の資産の一部として持てば、ほかの投資が下がっても全体の損失を抑えられるため安定した運用が期待できます。
これが金の持つリスクヘッジとしての働きのひとつです。
■ 米ドルへの依存度を減らす
米ドルは世界の基軸通貨として広く利用されていますが、近年、中央銀行はその依存度を減らす動きを強めています。
米ドルに過度に依存すると、アメリカの経済や金融政策の影響を強く受けるリスクがあるためです。
たとえば、米ドルが大きく下落したりアメリカが経済制裁を発動したりした場合、各国の経済にも大きな影響が及びます。
こうしたリスクを避けるために、中央銀行は「脱ドル化」としてほかの資産に分散投資を進めているのです。
その中でも金はどの国にも依存しない通貨代替資産として機能し、経済の安定を保つための重要な選択肢となっています。
個人投資家にとっても金を保有することで米ドルやほかの通貨に対するリスクを分散し、資産を守る手段として役立ちます。
3. 中央銀行の動きから学ぶ!個人投資家が金投資する3つのメリット
ここまでお伝えしたとおり、中央銀行が金を戦略的に保有する理由には経済の安定とリスクヘッジのための重要な目的が含まれています。
これらの動きは個人投資家にとっても非常に有益な示唆を与えてくれます。
最後に、中央銀行の動きからわかる、個人投資家が金投資を行う3つのメリットをみていきましょう。
■ 株式等との組み合わせでリスク分散
金は株式や債券との相関性が低いため、リスク分散に役立ちます。
通常、株式市場が不安定になると金の価格が上昇する傾向があります。
これは、経済危機や経済の不確実性が高まった際に、投資家がリスクの高い資産から安全な資産へ資金を移動させるためです。
金をポートフォリオに組み込むことで、株式市場の急激な変動に対するヘッジ効果を期待でき、安定的な投資成果を目指すことが可能です。
中央銀行がさまざまな資産を保有しているように、個人投資家も分散投資を心がけましょう。
■ 価値が0になる可能性が限りなく低い
金は何千年もの歴史にわたって、その価値を維持してきた実物資産(形がありそれ自体に価値がある資産)です。
紙幣やデジタル通貨と違い、金そのものは誰かの信用によって価値が裏付けられるものではなく、独立した価値を持ちます。
そのため、国の財政破綻やインフレによって価値が大幅に下落するリスクが少なく、特に長期的な保有に向いています。
金の価値が0になる可能性は極めて低いため、資産の保全手段として中央銀行が利用するのと同様に、個人投資家にとっても安心して保有できる資産といえるでしょう。
■ 国外でも価値が変わらない無国籍通貨
金はどの国にも属さない「無国籍通貨」としての側面を持っています。
そのため、特定の国の経済状況や通貨政策の影響を受けにくく、海外でもその価値が大きく変動しません。
たとえば、国の通貨が大幅に減価したりインフレが進行したりしても、金はその影響を受けずに価値を保ち続けます。
そのため、個人投資家が金を保有することは経済の変動に対する効果的な対策といえるのです。
4. 中央銀行の戦略を参考に、長期的な視点で金投資を検討しよう
中央銀行は短期的な市場の変動に振り回されず、長期的な視点で金を保有しています。
これは将来の予測が難しい「経済の不確実性」、つまり、何が起こるかわからない経済の波に備えるためです。
個人投資家もこの戦略から学ぶことができます。
今回の記事でお伝えしたとおり、株式や債券といった一般的な資産に加え、金をポートフォリオに組み込むことで安定した運用を目指すことができます。
短期的な金価格の上下に一喜一憂せず、中央銀行のように将来に備えるためのリスクヘッジとして、金投資を検討してみましょう。