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長崎は古くは遣唐使の派遣拠点となり、現代でも日本有数の港町として栄えています。
特に、江戸時代は鎖国下の日本において、外に開かれた唯一の玄関口でもあり、多くの先進技術が入ってくる街でした。
当時の交易では生糸や織物などを輸入し、日本からは海産物や銅製品などを輸出していたと記録に残っています。
この記事では、長崎貿易で使われた古銭の一種である長崎貿易銭について解説していきます。
長崎貿易銭は、鎖国下の日本において中国・オランダとの貿易で使われた7種類の貨幣を指します。
多くの古銭同様に中国の「天円地方」の思想に基づいて、円形で中央には四角の孔が開いているのが特徴です。
また、海産物や工芸品と並んで、銅不足であった当時の中国への重要な輸出品の1つでもありました。
原料となった銅の産出元は、化学分析の結果から対馬鉱山であると考えられています。
同時期に江戸幕府が発行を始めた寛永通宝と比較すると、やや薄手で銅成分が多いため、全体的に赤味がかっているのが特徴です。
日本の銅銭は、中国を通じて東南アジアでも広く流通した記録が残り、実際にベトナムでも長崎貿易銭が寛永通宝とともに発掘されています。
一説によると、ベトナムの通貨単位「ドン」は、長崎貿易銭をはじめとした日本の銅貨が由来とされ、江戸時代における東・東南アジア圏の交易範囲の広さが推察できる歴史的な文化財でもあります。
平安時代から室町時代までの約500年あまり、日本は自国内で通貨を発行していません。
しかし、この期間に平清盛や足利義満らが行った中国との貿易を通し、宋銭・明銭と呼ばれる中国製の貨幣が日本に流入します。
貨幣を持たなかった日本国内では、中国銭は市井の商売でも積極的に利用されていました。
しかし、江戸時代に入ると中国銭の扱いは一変します。太平の時代を迎えたことで、市民の間でも経済活動が活発になり、国内の貨幣需要が大いに高まります。
当時の日本は戦国時代に鉱山開発が進んだこともあり、世界でも有数の金銀銅の産出国でした。
豊富な資源力を背景に、江戸幕府は統一された金貨・銀貨・銅貨の国内発行を約700年ぶりに開始します。
国内製の通貨発行が始まると、幕府は経済活動の妨げになる宋銭・明銭の国内使用を禁止しました。
こうして不要になった中国銭は、長崎貿易を通じて銅が不足していた中国へ輸出されます。しかし、国内の古い貨幣だけでは、高まっていた貿易の需要を満たすことは不可能でした。
そのため、1659年に長崎奉行は幕府へと貿易のために使用する貨幣の鋳造を上申し、宋銭の名前を参考にした貨幣の鋳造が始まりました。これが長崎貿易銭の始まりです。
当時の中国は深刻な銅不足であり、この銅貨の輸出によって仲介していたオランダ商人は、莫大な利益を上げたとされています。
また、銅を中国からの輸入に頼っていたベトナムへも輸出され、良質な日本の銅貨は非常に歓迎されたようです。
しかし、その後の幕府の財政悪化や、金銀銅の産出量の減少も加わり30年ほどで発行が終了しました。
現在、長崎貿易銭は7種類が知られています。
わずか30年ほどしか発行されていませんが、発行年代が江戸時代初期である上に交易品の一種でもあったため、比較的数が多く残っており、遺産的な価値は現状それほど高くありません。
ただ、種類によって日本国内に残存している数が大きく異なり、希少価値にバラつきがあります。
そのため古銭コレクターの間では、安いものでは数百円程度、高いものでは数万円程度で取引されています。
また、貨幣に刻まれている文字は、元は中国銭で使用されていた名前であることには注意が必要です。
貿易を通じて中国銭も日本に多く流入しているため、一目しただけでは長崎貿易銭か、中国銭かの判断は素人にはできません。
本物の中国銭は、10世紀から12世紀の物であり高い歴史的価値があることは間違いないでしょう。しかし、コレクターの間では人気が低いため、100円程度が相場です。
売買のときには信頼できる鑑定士に依頼することが重要です。
元となる中国銭 | 元豊通宝(北宋代 1078年) |
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歴史的価値 | 低い | 買取相場 | ~1,000円 |
元豊通宝は、7種類の長崎貿易銭のなかで最も多く発行された貨幣です。加えて、現存数も多いため希少価値が低く、古銭コレクターの間では高くても数百円程度で取引されています。
また、長崎貿易銭の元豊通宝は、オリジナルと比較すると大きさや厚みなどが異なるため、ほかの長崎貿易銭に比べて判別がしやすいのが特徴です。
オリジナルの元豊通宝と同様に、刻まれた文字には行書体、隷書体、篆書体の3種類が存在します。
この中で最も高値で取引されるのは行書体ですが、それでも数千円程度にしかなりません。ただ、貨幣の原版になる「母銭」であれば、その価値は上がり万単位で取引されています。
元となる中国銭 | 天聖元宝(北宋代 1023年) |
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歴史的価値 | やや低い | 買取相場 | ~10,000円 |
天聖元宝は、7つの長崎貿易銭の中では比較的希少価値の高い貨幣です。元々、長崎貿易銭は中国との交易品のひとつであるため、日本よりは中国で多く発見されています。
特に、天聖元宝はオリジナルの中国銭も古い年代であることもあり、日本の古銭市場に出回ることは少なく、取引のときもやや高額になる傾向があります。
なかでも未使用の母銭は数が少ないため、数万単位の値が付くこともあります。
また、オリジナルの天聖元宝と遜色のない大きさや厚みのため、一目見ただけではオリジナルのものか判断しにくい貨幣です。
オリジナルと長崎貿易銭の天聖元宝では、その価値が全く異なるため、確認は慎重になりましょう。
元となる中国銭 | 祥符元宝(北宋代 1008年) |
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歴史的価値 | やや低い | 買取相場 | ~10,000円 |
祥符元宝もまた、7つの長崎貿易銭の中では希少価値の高い貨幣です。
元々、記録に残る発行枚数自体が少ないため、利用されていた貨幣であっても、ほかの長崎貿易銭に比べると高値が付く傾向にあります。
加えて、その希少性の高さからコレクターに人気のある貨幣です。
また、未使用の母銭であれば、その価値は一層高まります。元々、祥符元宝は希少価値のある貨幣ですが、その母銭となると市場にはほぼ出回っていません。
保存状態の良い物であれば40,000円から70,000円と、ほかの長崎貿易銭の母銭と比較しても高い金額で取引されています。
元となる中国銭 | 嘉祐通宝(北宋代 1056年) |
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歴史的価値 | やや低い | 買取相場 | ~10,000円 |
嘉祐通宝は、7つの長崎貿易銭のなかでは発行された量の多い貨幣です。見た目こそオリジナルの嘉祐通宝と遜色なく作られていますが、大きさに違いがあります。
また、刻まれた文字もオリジナルとは相違があります。オリジナルには楷書体と篆書体の2種類が存在しますが、長崎貿易銭の嘉祐通宝は楷書体のものしか存在しません。
発行量が多いため、比較的美品が多く残っています。
使用された貨幣であれば、取引価格は1,000円から2,000円くらいですが、未使用の極美品となると、35,000円から70,000円くらいで取引されています。
元となる中国銭 | 熙寧元宝(北宋代 1068年) |
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歴史的価値 | やや低い | 買取相場 | ~10,000円 |
熙寧元宝は、元々の鋳造数が長崎貿易銭のなかでも少ない貨幣です。加えて、日本国内では、全くと言ってよいほど出回らない貨幣のため、発見されること自体が貴重です。
日本国内では神戸で発掘されたものが、東京博物館に所蔵されています。
オリジナルの熙寧元宝には行書体と篆書体の2種類が存在しますが、長崎貿易銭の紹聖元宝には篆書体しか存在しません。
元々、市場に出回っている枚数が少ないことに加えて、コレクター人気の高い貨幣でもあるため、使用済みの貨幣であっても数千円と高い相場です。
ただ、篆書体のオリジナルとの見分けが非常に難しいため、素人は安易に判断せず、鑑定は専門家に依頼しましょう。
元となる中国銭 | 紹聖元宝(北宋代 1094年) |
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歴史的価値 | 普通 | 買取相場 | ~10,000円 |
紹聖元宝は、長崎貿易銭の中で比較的鋳造数の多い貨幣です。オリジナルの紹聖元宝には行書体と篆書体の2種類が存在しますが、長崎貿易銭の紹聖元宝には篆書体しか存在しません。
また、長崎貿易銭の方は、ややサイズが大きく刻まれた文字の彫りが浅いのが特徴です。
希少価値がほかの長崎貿易銭と比べると少し低いため、使用済みの貨幣であれば1,000円以下で取引されることもあります。
鋳造の雛型である母銭も同様です。未使用の極美品であっても、35,000円から70,000円と少し値段が下がります。
元となる中国銭 | 治平元宝(北宋代 1064年) |
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歴史的価値 | 普通 | 買取相場 | ~15,000円 |
治平元宝は7種類の長崎貿易銭のなかで、最も現存数が少ない貨幣です。
そのため、希少価値が高く、ほかの長崎貿易銭が使用済みであれば1,000円程度から取引されるのに対し、治平元宝は使用済みであっても取引相場は5,000円以上になります。
母銭も同様に高値で取引されており、汚れや痛みがあっても15,000円前後で取引されています。もし美品の母銭が見つかった場合は、その価値はより高まるでしょう。
オリジナルである宋銭の治平元宝は、ちょうど中国が貨幣を増産していた時代のため、現代でも比較的残存しています。
そのため、それほど希少価値は高くなく市場相場は500円程度です。価値の高い長崎貿易銭とオリジナルの区別は困難なため、取引のときは専門家を介するべきでしょう。
長崎貿易銭は、発行された期間の短さや、発行された大半が日本国内で流通していないため希少価値の高い古銭の一種です。コレクターの間でも人気があり、高値で取引されています。
ただ、時折混じる中国銭には注意が必要です。長崎貿易銭は非常に精巧に作られているため、モデルである宋銭と見分けることは素人では、不可能と言ってよいでしょう。
トラブルを避けるためにも、長崎貿易銭の買取を依頼するときには、古銭の知識を持った鑑定士に依頼しましょう。
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